この章では品種改良を行う際に注意をしなくてはいけない遺伝子のお話です。単に遺伝子と言っても色々な説明がありますが、今回はエンゼルの純血種と混血種の違いと純血種の大切さを掲載します。
純血種と混血種の違いとは?
純血種と混血種の違いについては簡単に犬や猫に例えれば血統証付で販売されているものが純血種、血統証が無く、別々の種類から生まれた子供などが混血種に該当します。一般的には混血種は雑種と呼んだ方がわかりやすいでしょう。
エンゼルフィッシュでも同様の事がありますが、あまり詳しくはありませんが犬や猫のように両親の特徴が混ざって現れるような事は少なく、ほとんどの場合はどちらかの親に似たエンゼルが生まれます。ある意味、単純ではありますがこれが非常に厄介な問題を引き起こす原因となりうる事なのです。
純血種と混血種の見分け方
まずエンゼルを見ただけでは、どんなにベテランのエンゼルマニアでも、その個体が純血種か混血種かを判断する事は不可能です。これは混血種でも基本的には何らかの品種の定義を満たした個体として登場するためであり、飼育している個体が純血なのか、それとも混血種なのかは遺伝子をDNA鑑定で調べるか繁殖させて子供を育てる以外に方法はありません。
たとえDNA鑑定をした所で血統的な遺伝子の違いも存在するため、比較の対象も無い状態では何が何処まで判明するかわかりませんので簡単に言えばそれだけ判断する事は難しいと言う事になります。
基本的に純血種の定義とは親魚の品種定義を100%子どもに伝える事の出来る個体と呼んで構いませんが、エンゼルの品種の中にはグッピーのブルーグラスに近いヘテロ型の遺伝を有するタイプもあり、このようなタイプは例外的な扱いとなります。それではなぜ純血種が必要なのか、ご説明して行きましょう。
純血種の必要性について
筆者が販売を行っているオオツカ熱帯魚では色々なエンゼルの販売をしていますが、ほとんどの個体が昔から大切に系統維持している特別な血統の個体が多く存在します。なぜそのような事が必要になるか、その前に一般的に販売されている輸入エンゼルについて触れておきましょう。
エンゼルフィッシュの繁殖は比較的容易に行う事ができる為、多くの方がその繁殖を経験されていると思います。しかし、同じ色の品種同士を繁殖させたのに違った色のエンゼルが沢山現れた経験を持つ方は意外と多くいらっしゃるのでは無いでしょうか。
これは東南アジアなどで養殖されたエンゼルは系統の維持などよりも、大量生産を中心として考えられている為、安価で提供するためには仕方ない部分がありますが、色々なエンゼル同士を無作為に交配しているような場合も少なくなくありません。
その結果で生まれてきた個体を名前別に分けて販売している為に混血種同士の繁殖では違った品種が生まれてくる事となります。代表的な例としてはエンゼルフィッシュ(並エンゼル)同士のペアを繁殖させてもゴールデンやマーブルが現れたり、下手をするとアルビノやダイヤモンドまで子供に現れてしまうような状態になります。
これはある意味、色々なエンゼルが楽しいと言えない事もありませんが、少なくとも品種改良を行うために計算された交配を行ったとしても様々な遺伝子を含む混血種では正しい結果にならないことが最も大切な難題です。
ゴールデンエンゼルは優勢遺伝の品種?
古くから知られるゴールデンエンゼルは、かなり多くの方が誤った知識を持っているようですがこのゴールデンという遺伝子については劣性遺伝子に分類されます。恐らく、この文章を読んだ方は「そんな事は無い、並とゴールデンの交配でちゃんとゴールデンが現れた」と思うような方も少なくないと思います。
しかし、実際のところは誤った知識であり、純粋な並エンゼルと純粋なゴールデンエンゼルの交配ではその子供(F1)は全て並エンゼルになります。これは生物である以上、100%確実に…と言ったことはありませんが、少なくとも以前に並エンゼルとゴールデンエンゼルの純血種を保有していた際に試した結果なので、当店で保有していたタイプでは間違いはありません。
では、なぜ間違った知識を多くの方が持っているかと考えると、限りなく純血に近い個体でもごく僅かでも他の遺伝子を保有しているような事があるでは無いでしょうか。国産のエンゼルの中にも純血ではない個体は少なくありませんので、並エンゼルとゴールデンエンゼルの交配ではどちらかと言えばこちらのほうが正しいと勘違いされる事が起きるのです。
また、ゴールデンはノーマルに対して劣勢遺伝だとしても他の品種でもそうかと言えばこれはまた別件で、純粋な並エンゼルとゴールデンの交配は「並>ゴールデン」となりますが、別の純血品種同士の交配では逆に「○○<ゴールデン」と言った結果もあります。色々と知りたい方は様々なエンゼル同士の交配をしてみると面白いはずです。
品種改良における純血種の大切さについて
上記の文章でも簡単に触れましたが、品種改良を行う場合に少なくとも目標として作る個体を考えて繁殖を行うわけです。色々な遺伝子が複雑に絡み合っている雑種のエンゼルでは、思うような品種改良ができないことも少なくないので純血種の存在が欠かせない事となります。
エンゼルフィッシュにおいては国産グッピーのようなブランドが確立されておらず、たとえどのような雑種であっても品種の定義を満たしていれば何でも構わずに販売されているのが現実です。今回に書いたような純血種の大切さをよく理解して遺伝子的にも高い品質の個体を求めるような形になれば、グッピーと同じようなブランドかもあるかもしれませんが現行では難しいでしょう。
この文章を読んだ一人でも多くの方が純血種の大切さを知り、価格ばかりを求めるのではなく、高い品質の良いエンゼルを求められる事を心より祈りたいと思います。