第11章 輸入エンゼルフィッシュとエンゼル病

エンゼルフィッシュを「飼い難い魚」とレッテルの貼られる最大の原因となっているのが、このエンゼル病の存在です。人によって呼び方は異なり、「エンゼル病」・「エンゼルエイズ」・「シクリッド病」など多くの呼び名が存在します。エンゼルの病気については色々な種類がありますが、このページではその中で最も注意が必要なブリーダーが最も恐れる「エンゼル病」について説明をします。

このページに記載している情報は2000年頃に私自身がエンゼルの新たな血統を導入する際に徹底した隔離飼育による防衛策を講じたのにも関わらず、エンゼル病の飛火により数千匹のエンゼルを犠牲にした苦い経験を元に記載したものです。

エンゼルフィッシュを初めて購入される場合だけではなく、新たにエンゼルを購入する場合も新しいエンゼルが病気を持ち込んでいままで飼育していたエンゼルも全滅する話も度々聞かれます。病気の存在をしっかりと認識して十分過ぎるほどの注意をして頂ければ幸いです。

世界中のブリーダーを危機に追い詰めた恐怖の「エンゼル病」

この病気は記憶が確かではありませんが1985年辺りに初めて発生し、世界中に飛火して大流行してしまった恐怖の病気です。この病気はエンゼルフィッシュだけではなく、ディスカスにも感染する病気であり、「ディスカス病」や「ディスカスエイズ」とも呼ばれています。

この病気の最大の特徴は何と言っても、驚異的な致死率を秘めた伝染性の極めて高い病気だと言うことです。少なくとも国内外のエンゼル、ディスカスブリーダーがこの病気によって廃業に追い詰められた人も少なくないほど、治療が困難で対応が難しい恐怖の病気と言えるでしょう。

エンゼル病とディスカス病について

エンゼル病もディスカス病も基本的には同じ病気だと思って問題はありません。しかし、体力のあるディスカスの場合は「グリーンFゴールド」や「エルバージュ」と言った細菌性の病気に効果のある薬を使用してディスカスが病気に対する免疫が出来るまで、病気の進行を抑えることが出来れば完治する場合が非常に多い様子です。

しかしエンゼルフィッシュの場合は病気に対する抵抗力が弱く、治療が終えるまでに斃死率も高い事から「死の病気」として多くのブリーダーに恐れられています。エンゼルフィッシュとディスカスの他、トライアングルシクリッドにも感染するとされていますが、この魚は発症しても重病化せずに治るとされています。

エンゼル病は特効薬の無いウイルス性感染症?

上記の文から「ディスカスなら直るのに?」と不思議に思われる方もいると思いますが。ディスカスはこの病気に対して抵抗力が非常に強い上に輸入されてくるサイズもエンゼルより大きい為、体力もあるのが治療できる一つのポイントのようです。

しかし、エンゼルフィッシュの場合は病気に対する抵抗力が弱く、私の経験ではS・Mサイズのエンゼルの場合、感染した場合は約7割以上、酷い時は全滅してしまうほどに驚異的な致死率を誇る病気です。その上に感染力が非常に強く、エンゼル病の発生した水が1滴でも別の水槽に混入するだけで・・・その水槽のエンゼルも全てエンゼル病に感染してしまうほどの強力な感染力を持っています。

ディスカスの治療方法から見て治療に最も効果のある魚病薬は細菌性の病気に効く「グリーンFゴールド」や「エルバージュ」などが少なくとも何もしないよりは病気の進行を遅らせる程度の効果はあるように思えます。

この病気がエンゼルフィッシュとディスカス、そしてトライアングルシクリッドと非常に限定された魚種にのみ感染する事から、細菌性の感染症ではなくウイルス性の感染症である疑いが非常に強いものと考えられています。

エンゼル病の潜伏期間は約7日~10日間

この病気の非常に厄介な点が感染しても、病状が現れるまで1週間以上の時間が掛かる場合がある点です。感染しても数日間は何も問題なく魚は過ごしている為、その状態から感染の有無を見分ける事は極めて困難です。

初期症状もpHが下がった際のような「何となく調子が悪い・・・」と感じられる状態から徐々に体が粘膜に多量の覆われ、日を逐う事に状態が悪くなって症状が進行して尾ぐされ病のような形で徐々にヒレから体が溶解して斃死に到ります。

霞ヶ浦を中心に大きな被害を出したウイルス性感染症とエンゼル病

2004年に大きなニュースとなったのが、今まで日本に存在していなかったウイルスの進入により莫大な被害が出た「コイヘルペスウイルス」です。詳しい進入経路についてはわかりませんが、霞ヶ浦を中心に日本中に被害が広がってしまった事は記憶に新しいことです。

霞ヶ浦の養殖業者の方々は著者も似たような立場で、エンゼル病によって苦しめられた経験があるので苦しみも良くわかりますし、廃業に追い込まれる気持ちは耐え難いものだと思います。錦鯉の業者も全て都道府県のウイルス調査が行なわれた様子で非常に大変だったようです。

この出来事は直接、エンゼルフイッシュとは関係ないことではありますが、ウイルス性の感染症を軽視していると大変な事になるという事を理解して頂きたく、掲載しました。エンゼル病とコイヘルペスは違いこそありますが、非常に恐ろしい感染症である事は間違えありません。特に輸入エンゼルと国産エンゼルを混ぜて飼育する場合は注意してほしいと思います。

飼育マニュアル コンテンツ一覧

第1章 エンゼルフィッシュってどんな魚?
第2章 失敗しないエンゼルフィッシュの購入ポイント
第3章 エンゼルフィッシュの飼育に最適な水槽と飼育可能な数
第4章 エンゼルフィッシュの飼育に最適な濾過装置とは?
第5章 エンゼルフィッシュに最適な餌はどんな餌?
第6章 エンゼルフイッシュに最適な水温・水質と飼育可能な範囲
第7章 エンゼルフィッシュと混泳に注意が必要な熱帯魚
第8章 エンゼルフィッシュと混泳の相性が良い熱帯魚たち
第9章 品種によって異なるエンゼルフィッシュの飼育難易度
第10章 エンゼルフィッシュの寿命と繁殖可能な年齢
第11章 輸入エンゼルフィッシュとエンゼル病
第12章 病気とその対処方法
第13章 エンゼルフィッシュ水槽のレイアウト


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